koi



























小さな部屋を借りて


二人で一緒に暮らし始めたのは10年前の夏だった。


蒸し暑い夜は窓を半分だけ開けて、二人抱きしめ合って眠ったね。


決して贅沢な暮らしではなかったけれど、それでも幸せだった二人だけの生活。









ある時、二人は気持ちの擦れ違いが多くなった。


お互いの時間を共有するのが困難になって、君はどんどん離れていった。


そして別れた、二年後の冬。









それから、僕は何度か恋を重ねた。


一人の女性を愛し、そして別れることを繰り返した。


ただなんとなく毎日が過ぎていく、心にポッカリ穴が空いたような


つまらない一人きりの生活。









そんなときだったね、街で偶然君に出遭ったのは。


君を見つけた瞬間、僕は胸に熱いものが込み上げてくるのを感じた。


僕を見る君の眼差しは、”懐かしい友人”を見るかのようだったね。


「ひさしぶりだね。」


なんて、無邪気に話し掛けてくる君は


10年前よりも綺麗で、そして、大きなお腹をかかえていた。


「結婚して、来年の春には子供も産まれるの。」


そう言って、君は幸せそうに笑った。


「おめでとう、幸せそうで良かった。」


僕は心にも無い言葉を放って、二人は笑顔でその場を離れた。









きっともう二度と、二人は出遭うことはないだろぅ。


あの頃は二人ただ若すぎて、不器用でうまくいかなかっただけだった。


馬鹿な僕は、また恋におちた。


君とやり直したい。


いまの二人ならきっとできる。


もう一度、君が居たあの部屋に戻れたら。


家具もカーテンすら無く


それでも互いの温もりさえあれば幸せだった、あの部屋に。




君の空気があった。




君の笑顔があった。




何よりも、君が居た。




あの部屋に。






でも、もう戻れない。


君の中の小さな命が、現実を物語っているから。


やはり僕は馬鹿で、それでも君を諦めきれない自分がいた。


そんな自分が腹立だしくて、悔しくて。


情けなく、涙が溢れ出て頬を伝った。








君がママになったとき






心からおめでとうと言える日が来るのだろうか。






いや、きっと言ってみせる。






いつか、愛する君のために。






















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